過去拍手

□優しい天使の甘い罰
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「放して」


「……悪かったよ。
本気じゃねぇんだ、ほんの遊び心で――」


「次はそう言えば赦してもらえる彼女を探しなさいよ」


「待てって!
もうぜってー浮気はしねえ。他の女とも会わねえから!」


「今更そんなこと言われて信じると思うの?
随分調子がいいのね」


「……わかってるよ。
けど俺は――おまえじゃねえと駄目なんだよ」


「聞いて呆れるわ」


「おまえが信じてくれるまでどんなことでもする!
だから、行くなよ……」



普段の彼からは想像もつかないような弱々しい声でそう漏らしたグリムジョーに背を向けたまま、私は冷たく言い放った。



「どうせ口だけでしょ」


「俺に出来ることならなんだってやる。
口だけかどうかはそれを見てから決めてほしい」



ぎゅっと背後から回された腕は微かに汗ばんでいて、それを告げるグリムジョーがどれだけ真剣なのかを肌越しに私に伝えた。



ここまでくれば、あとちょっと。


腹の底から湧き上がる笑みを堪えて、私は先程と同じぐらいの低音を保って淡々と告げる。



「もしもそれが守れなかったら?」


「そんときは俺を好きなようにすりゃあいい。
……ぜってーそんなことにはさせねえけどな」



強い口調で言い切ったグリムジョーに、私はとうとう笑みを零した。


もちろん、背中のグリムジョーには気づかれないように、こっそりと。



――うん。まあ、いいでしょ。



「そこまで言うなら……もう一度だけチャンスをあげよっかな」


「本当か!?」



ぱぁっと明るい声を漏らしたグリムジョーを振り返って、じっとその双眸を覗き込む。



「その代わり、もう絶対他の女と遊ばないでね。飲んだりするだけでも駄目よ?」


「ああ。約束する」


「それから――もうすぐクリスマスよね?
……欲しい物があるんだけどなぁ」


「そんなのいくらでも買ってやるよ。
イブは任務もねえし、街に出て買いに行こうぜ」



グリムジョーが上機嫌に笑ってそう言った瞬間。





――勝った。



私は心の中でガッツポーズを決めた。



「うん。じゃあ約束ね?」


「ああ。朝一で迎えに行くから準備しとけよ」



ぽふぽふと私の頭を撫でるグリムジョーは心底嬉しそう。



最悪の結末を免れてほっとしてるんでしょうね。


別に最初から本気で別れるつもりなんてなかったけど。



でも、ただで赦すわけにもいかないでしょう?


いつまで経っても懲りない浮気男には、きつーいお灸を据えてやらないと。


そのついでに念願のクリスマスプレゼントまで買ってくれるって言うんだもの、これを逃す手はないわよね?




ああ、たったそれだけで不実を赦してしまう私って、なんて優しいんだろう。


いくらなんでも甘すぎるって自分でも思うわ。



ねえグリムジョー、こんな私を逃さないように、これからも精々頑張ってね?





イブ当日、財布の隅まで絞り取られたグリムジョーが「二度とあいつを怒らせるまい」と心に決めたのは言うまでもない。






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