Near…

□五番隊新人隊士
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「つーわけで、今日からうちに所属することになったウルキオラだ!」

 その朝、五番隊の隊士は驚愕に揺れていた。
 彼らの視線の先には緋色の長髪を束ねた若き新隊長が腕組みして仁王立ちしている。背に大きく『五』の数字が刻まれたその羽織はまだ新しい。
 が、隊士たちの注目を一身に集めているのは恋次ではなく、その隣に並び立つ黒髪の青年だった。

「こいつのことはまあみんなも知っての通りだ。三年前に藍染をぶちのめして崩玉をぶっ壊した元十刃。いろいろあって今はこうして死神になった」

 いろいろ、の部分に大半を含めて雑な紹介をする恋次に、当然ながら隊士たちの理解は追いつかない。
 見たところ仮面も仮面紋(エスティグマ)もなく、死覇装に身を包んだその姿はまさしく死神だ。しかしその面影は確かに、かつて藍染の忠実なる臣下として危険視されていた第4十刃(クアトロエスパーダ)のものであった。

「入隊にあたっては総隊長を始め十三隊の全隊長が賛同してる。各自思うところはあるだろうが、魂の安寧のために身を捧げるっつう志はこの場にいる誰とも変わらねえ。五番隊の一員として面倒見てやってくれ」

 ぽんっとウルキオラの肩に手を乗せた恋次が快活に笑ったものの、即座に手を叩いて反応したのは副隊長の雛森のみだった。

「よろしくね、ウルキオラくん。副隊長の雛森桃です。わからないことがあったらなんでも聞いてね」
「来月には四番隊に転属する薄情モンだけどな」
「あ、阿散井くん、そういう言い方しないでってば! 治癒術の勉強したらちゃんと戻ってくるつもりだもん」
「わーってるよ、冗談だって」

 同期生らしく喧々と言い合うふたりの横で、ウルキオラは静まり返る五番隊の隊士へ向けて一礼する。

「至らぬ点ばかりでご迷惑をおかけするかと思いますが、ご指導のほどお願いいたします」

 数秒間頭を下げてからおもむろに目線を上げると、一般隊士のみならず恋次や雛森も驚きを顕わにしていた。

「……どうかしましたか」
「いや、おまえそういう挨拶もできんだなって。てっきり上から目線で威張りちらすかと思ってたぜ」
(俺をなんだと思っているんだ、イカサママユゲ)

 心の声は無論口には出さずに「いえ」とだけ言っておく。
 一体どんな想像をされていたのか知らないが、元より序列を軽んじるつもりはない。目上の者には敬意を払ってしかるべきで、新人隊士である自分はその序列の一番下に位置しているのだという自覚もある。それを踏まえたうえで当たり障りのない挨拶をしたまでだ。
 なにより、自分を護廷十三隊へ引き入れた沙羅の立場がある。早々に失態を犯して彼女の信用を失墜させるようなことがあってはならない。
 沙羅とともに生きるために死神となることを選んだのだ。その助けとなることこそあれ、枷になるわけにはいかない。

 覚悟を宿した面持ちで前を向く。
 突如入隊した元十刃を好意的に受け入れているのは恐らく隊長の恋次と副隊長の雛森のみ。
 ざわめきの中、多くの隊士の表情に表れていたのは――

 敬意でも敵意でもなく、ただただ畏怖であった。


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