Dear…U
□Invisible Cords
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「そいつにそれ以上言っても無駄よ」
腰まで伸びた金糸の髪が、この薄暗い第4の宮には場違いな存在感を放っていた。
「乱菊……」
振り返った体勢のまま暫し硬直していた沙羅は、その名を口にして我に返る。
「なんで乱菊がここにいるの!?」
もう二度と会えないことも覚悟した無二の親友。
けれど今は再会を喜ぶ気持ちよりも驚きの方が遥かに大きかった。
「あんたを追ってきたに決まってんでしょ」
「追ってきたって……」
「こっちはあんたの行動パターンなんてお見通しなのよ。ったく手がかかるんだから」
呆気に取られる沙羅を尻目に、乱菊は大袈裟に吐息を漏らして続ける。
「今朝、浮竹隊長からあんたが辞表を置いて姿を消したって聞いてすぐにわかったわ。彼に会いに行ったんだって。
で、現世へ下りて浦原商店へ向かったの。あんたが虚圏に行くとしたら、頼れるのは浦原さんぐらいしかいないでしょうからね」
乱菊の話を聞いても尚、沙羅は彼女がここにいる現実を呑み込めなかった。
例え沙羅の失踪の背景に浦原の存在を嗅ぎ取ったとしても、彼が正直に口を開くとは思えないからだ。
沙羅との約束云々の前に、白状するメリットがない。隊士の出奔に手を貸したとなれば尸魂界から余計に厄介視されるだけだ。
「わかってないわね」
沙羅の疑問をそのまま読み取って乱菊は笑う。
「浦原さん、隠すどころかあっさりと話してくれたわよ。
むしろもう少しあたしが行くのが遅かったら、自分から話しに行くつもりだったとまで言ってたわ」
「どうして……そんなことしたって浦原さんには何も――」
「バカね。あんたを放っておけないからに決まってるでしょ」
さも当然のように告げる乱菊に沙羅は言葉を失った。
こんな自分勝手な行動を取って、もう縁を切られることも覚悟していたはずなのに。
それでも追いかけて来てくれた親友。
そして、沙羅の唐突な申し出を聞き入れるだけでなく、その身を案じて行動を起こそうとまでしてくれた現世の協力者。
そんな彼らに対してどんな言葉を向ければ良いのかわからなかった。
「で、あたしも後を追ってきたんだけど……まさかこいつとまで鉢合わせることになるとはね。
これも運命ってやつかしら」
黙り込む沙羅から視線を後方にずらして、乱菊は自嘲の笑みを浮かべる。
憂いなのか喜びなのか見分けのつかない色を灯した双眸は、その先に佇む銀糸の髪の幼馴染を真っ直ぐに捉えていた。
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