Dear…U

□I Never Forget You
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想いを重ねてからの時間は、全てが幸せに満ち溢れたものだった。



「しーおーんー!」


満開に花開いた桜の木の枝に寝転んでいた紫苑は、自分を呼ぶ声に薄目を開いた。

眼下を見下ろせばこちらを見上げる恋人の姿がある。


「やっぱりここにいた」


ふわっと軽やかな笑みを向ける沙羅を見て、紫苑は口元を綻ばせながら身体を起こして桜の枝から飛び降りた。


「よくわかったな」

「鍛錬場にいなかったから、こっちだろうなって。紫苑もすっかりここが気に入ったんだね」


眩しそうに桜の花を眺めて話す沙羅に倣って、紫苑も頭上を仰ぐ。

枝先いっぱいに薄桃色の花を散りばめた一本桜は見事な美しさを誇っていた。


「そうだな。花などなんの意味もないと思っていたが……こうして眺めるのも悪くない。
この桜を見ていると、心が和む」


桜を見上げながら呟いた紫苑は、隣で沙羅がくすりと笑ったのに気づかなかった。

出逢った頃の彼からはおよそ想像もつかない台詞だが、おそらく本人は自覚していないだろう。



「今日は早番だろう?随分遅かったな」

「うん。明日の分まで資料の整理してきたから、ちょっと時間かかっちゃった」

「明日何かあるのか?」

「もう忘れたの!?今朝工藤さんに誘われたじゃない、明日の夜みんなでご飯食べようって!」

「……ああ、そうか」


沙羅に非難の視線を向けられ、そういえばと相槌を返す。

これまでは仲間からの誘いを断りがちだった紫苑も、ここ最近では沙羅に引っ張られる形で同行することが増え、そうした飲みの席に参加するのも珍しいことではなくなっていた。


「もー、工藤さんに怒られるからね?絶対に来いってあんなに念押ししてたんだから」

「あいつは俺に絡みたいだけだろ……」

「あはは、それだけ紫苑のことが好きなんでしょ」

「俺のことが、じゃない」

「え?」


紫苑と沙羅の関係は今や第三部隊の中では公認となっている。

その発端となったのは他ならぬ工藤だった。

二人の進展にいち早く気づき、仲間の前で盛大に祝福してくれたのだ。


と、ここまではなんとも人の良い工藤であったが。

飲みの席で酔いが回ると、「沙羅は俺が狙ってたのによぉ〜!」などと喚いて紫苑を羽交い絞めにしてくる。

それを冗談だと思ってけらけらと笑って眺めている沙羅は、その腕に並々ならぬ力が入っていることに気づいていない。


明日もまた絡まれるのか――と内心で項垂れながらも、沙羅の前では曖昧に流すしかない紫苑であった。




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