Dear…U
□Through the Sky
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主を失った玉座の間はそれまでの出来事が嘘のように静まり返っていた。
虚空を見つめたまま立ち尽くす沙羅の足元に、コロコロ……と崩玉が転がってくる。
未だ薄桃色に光り続けるそれに手を伸ばし、暫し逡巡してから指先でそっと触れた。
拾い上げてみても崩玉は変わらぬ輝きを放つだけだった。
「沙羅」
呼び声に振り返って、ウルキオラの顔を見て、ようやく実感する。
ウルキオラは帰刃を解き、解放状態から元の姿へと戻っていた。
ああ……終わったんだ。
だが手放しで喜ぶことはできなかった。
そう割り切るには代償が大きすぎた。
否、正確にはまだ終わってはいないのだ。
彼に託された願いがまだ、残っている。
崩玉を握り締めて、ウルキオラを見上げた。
ウルキオラも沙羅を見ていた。
互いに、言葉はなかった。
「……おい。何ぼさっとしてんだよ」
沈黙を破ったのはどちらの声でもない。後方から姿を現したグリムジョーだった。
「グリムジョー!動いて大丈夫なの?」
藍染に放った王虚の閃光で全ての霊力を使い果たしたと思っていたが、さすがは第6十刃とでも言うべきか、動ける程度までは回復したらしい。
ギンが登場してからの一部始終も見ていたのだろう。
「人の心配してる場合かよ。んなことより――」
言いながら沙羅の手元へと目を向けるグリムジョー。
淡い光を放っていた崩玉に異変が起こり始めていた。
小刻みに震え出した崩玉の内側に、幾重もの亀裂が入っていく。
「市丸隊長……」
恐らくこれがギンの卍解の効力なのだろう。
外部からのあらゆる干渉を弾いていたはずの崩玉の防壁が、みるみる弱まっていくのが見てとれた。
それと同時に崩玉の内部からただならぬ霊圧が漏れ出してくる。
これまで崩玉の中に蓄積されてきた幾百、幾千もの魂魄の集合体。
藍染という絶対的な主の存在によって均衡を保っていたその霊子の塊が、今にも崩玉の殻を破って飛び出そうとしていた。
それらの全てが放出されれば、この虚夜宮はおろか、虚圏全土をも巻き込む爆発にもなりかねない。
「――縛道の七十三・倒山晶」
沙羅は縛道を詠唱し、崩玉を結界の中に閉じ込める。
一旦は鎮まったものの、崩玉から溢れ出す霊圧の量を考えれば結界が破れるのは時間の問題だった。
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