Dear…U

□The Third Spring
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殺到していた入隊申請が落ち着き、当面の役割分担も固まった頃には、特別調査隊の正式な隊舎が瀞霊廷の奥地に完成した。

本拠地を移し終えたところで浦原が立案・設計した常時開通型の黒腔を隊舎内に展開する。

恒常的に虚圏と行き来できる環境が整うと、沙羅はすぐさま虚圏への調査遠征を開始した。


藍染亡き後、当然ながら虚圏は大きな変化に見舞われていた。

主の支配から解放されたことにより自由を求めて旅立つ者もいたが、大半は行くあても目的もなく、今後を決めあぐねている者も含めると虚夜宮には未だ多くの破面がとどまっていた。

玉座の間を中心とした一帯は更地となっているものの、それ以外の大部分については居住するには十分な空間であり、それなりの設備も整っていることが大きな要因だろう。


沙羅が二月(ふたつき)ぶりに虚夜宮に姿を現したその日、出くわした破面の大半は尻尾を巻いて逃げ出した。

調査への同行はあまり破面たちを刺激しないようにごく少数にとどめたものの、沙羅は絶対的な力を有していたあの藍染を倒した死神である。下級の破面たちにしてみれば恐怖の対象でしかない。


「お願い!少しでいいから話を――」

「うわあああああ死神だッ!お、俺は何もしちゃいないぞ――!」

「待っ……」


そんな破面に対して「敵意はない、どうか話を聞いてほしい」と懸命に声をかけて回るも、反応はなしのつぶて。

何度目かの空振りに落胆しつつ、しかし沙羅にはひとつ気づいたことがあった。


「また逃げられちゃったわねぇ」

「うん……でも思ったよりも荒れてないみたい。良かった」


隣で嘆息する乱菊に頷きを返しながら沙羅は周囲を見渡す。

王が消え、統率体制も崩壊したことで無法地帯と化しているかと思ったが、どうやらそれほどでもないらしい。

この機に乗じて新たな王に成り代わろうと目論む者が現れたり、縄張り争いが勃発してもおかしくはないのだが。


「言われてみればそうね。もっと殺伐としてるかと思ったわ」

「――しっ!」


急に声を潜めて沙羅は人差し指を口にあてる。

前方から複数の霊圧を感知した。それもかなりの濃度だ。けれどどこか覚えのある――


「随分な手練れのようね……まさか十刃の残党――って沙羅!?」


突如駆け出した沙羅に乱菊は声を抑えるのも忘れて叫んだ。

ぐんぐんと速度を上げて回廊を走る。そして突き当りを曲がったところでその霊圧の主と鉢合わせた。



「……おまえッ!?」

「グリムジョー!!」


空を映したような水浅葱の瞳が大きく見開かれる。

ものすごい勢いで近づいてくる霊圧に身構えていたグリムジョーは、沙羅の姿を目に留めるなり驚愕の表情を浮かべた。


「会えて良かった!無事だったのね」

「……おまえこそ生きてたのかよ」


嬉しそうに声を弾ませる沙羅を、グリムジョーも彼のお馴染みの従属官たちも驚きを隠せない様子でまじまじと見つめる。


「もう一度ちゃんと伝えたいと思ってたの。あのときは本当にありがとう」

「礼なんかいるか。俺はずっとムカついてたんだ、崩玉の破壊もてめえら二人で勝手に決めて勝手にいなくなりやがって!」

「グリムジョーかなりへこんでたもんな〜」

「るっせえ!!」


すかさず茶々を入れたディ・ロイに容赦ない鉄拳を飛ばし、眉間に皺を寄せるグリムジョー。

しかし沙羅が「ごめんなさい……」と素直に謝ると苛立ちの矛先を失ったのか短く舌打ちした。


「にしても、あの爆発の中心にいて生き延びるなんざつくづく悪運が強いな。ウルキオラの奴はどうした」

「あー、うん……」


沙羅は曖昧に笑ってから、次第にその表情に影を落とす。

それを無言で見据えたグリムジョーは、急に歩き出すと近くの岩場にどかっと腰を下ろした。


「……説明しろ」


長い腕を組んでじっと沙羅の反応を待つ。

話を聞いてくれる、ただそれだけで救われたような気持ちになって沙羅はとつとつと話し出した。ウルキオラの最後の決断とその末路を。




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