Dear…U
□An Indelible Name
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「草薙……沙羅」
それは消そうともがけばもがくほどに、記憶の奥底に色濃く刻みつけられる名前。
+ + +
闇天の空に浮かぶ青白い三日月。
その頼りない光が射し込む先に彼女はいた。
『よかった……遅いから心配しちゃった』
安堵の笑みを浮かべたその顔は、主が連行するよう命じた“対象者”と一致した。
『おまえが草薙沙羅か』
『冗談でしょ……?ウルキオラ……』
驚愕に打ち震えながらこちらを見据える濃紫色の瞳。
思えば最初から不可解だったのだ。
何故この女は俺の名を知っている?
『私がわからないの?』
『どうして……こんな……』
何故こんなにも哀しそうに、俺を見る?
『ウルキオラ!話を聞いて!』
まるで
『いい加減に……目、覚ましてよ……バカキオラ……!』
まるで、俺を――
「……っ」
朧月に照らされた瞳から涙が一粒零れ落ちたところで、ぷつんと記憶が途切れた。
同時に頭がひどく痛み出し、ウルキオラは左の頭蓋を押さえる。
内側から溢れ出す何かを仮面で無理矢理押さえ込むように。
「何故……」
痛みをやり過ごしたところでウルキオラは再び目線を上方へ向けた。
崩玉から放たれた光の中、くっきりと浮かび上がるその姿は記憶に刻みつけられたものと何ら変わることはない。
「何故あの死神が……虚圏に」
虚圏へ連行するというウルキオラの提示に強い抵抗を示し、剣を抜いても尚応じることはなかった草薙沙羅。
途中からの記憶は定かではないが、窮地へ追い詰められたところを仲間に救われ、命からがら逃げ出したのではなかったか。
その死神が一体どんな理由があって自ら虚圏へ赴いたというのか――
動揺を隠せないでいるウルキオラを隣で愉しそうに眺めていた藍染は、崩玉が映す映像の中にもうひとつの人影を捉えると片眉を上げた。
「……おや?グリムジョーも一緒なのか」
意外そうな主の言葉に、ウルキオラも見慣れた水浅葱の髪を見つけた。
侵入者である死神の前を進んでいるのは、自分同様藍染から一桁の数字を与えられたはずの男――
第6十刃、グリムジョー・ジャガージャックだった。
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