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□燃ゆる紅蓮の朱。
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「お逃げ下さい、孫権様」

何故、敵である人間に「お逃げ下さい」などと言われたのか。
全く分からなかった。

燃え盛る炎は弱まることを知らず、大船団を飲み込んでゆく。
蒼を基調とした衣は見紛う事も無く、敵軍曹操勢力の人間と解る。
「何故?」
敵が剣を鞘に納め地に置き敵意が無い事を示す。
「何故と申されても・・・今の私には『お逃げ下さい』としか言えないのです・・・」

「・・・お前、名は何と言う」
聞くべき事は他にあるのに。
「・・・貴方様には申し上げられぬ名です・・・」

哀しげな微笑。


何処かで同じ様な場面があったと気がついたのは戦から凱旋し、謎の女の話を父の代から我ら孫呉に仕える物から聞いた。

十年前に、とある娘が密偵の為に孫呉から放たれたと。
そして万が一素性が明かされた場合、関係ない。と言うかの様に、その娘が孫呉に居た記録さえも消したと・・・。

「いずれ戻って来るのであろう」
「役目を終えれば・・・ですがな」
黄蓋が答える。
「・・・何か知っているのか?」
今は少しでも彼女の事を知りたい。忘れられない。
「名は雪姫と身寄りの無い娘で大殿が拾ってきたのですわ」

『孫堅様には恩義が御座います故、雪姫はお役に立ちとう御座います!!何卒お役目を』
『お前は俺の娘同然だ。恩義など・・・』
『それでも・・・!!孫呉の為、お役に立ちたいのです!!』
『・・・雪姫・・・』

「・・・・・・!!」
父上が「今日から家族だ」と紹介して来た。
『権、お前の一つ上だ。姉上と呼ぶんだぞ』
『・・・雪姫です・・・』
『あ、姉上。孫仲謀と申します』
『・・・宜しく、ね』
ぎこちない微笑み。
あの赤壁での微笑みと同じ。

姉上にとっては「家族」は何だったのだろう。
父に必死に役目を戴こうとするまで、何があったのか。

もう一度逢いたい。
姉としてでは無く一人の女性として彼女を知りたい。
心に残る「傷」を癒やしてやりたい。

気がつくと雪姫をどうにか呼び戻す手立てを呂蒙、陸遜に相談している自分が居た。




この気持ち。
例えるならば燃える赤。
そう、赤壁で見た赤と同じ。



燃ゆる紅蓮の朱




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シリーズ化しようかな

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