□夜長
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夜中。



聚義庁の一室。
「ちょっと多いんじゃないか?」
「平気だろう。最近眠れないのだと言っていたからな。もっと入れてもいいんじゃないか?」
「いや、でも薛永の説明によると、この薬は3回分けて飲ませるといいらしいぞ。そのほうが快眠できるらしい」
小さな湯呑みを前に、ごそごそと動く男がふたり。
頭領の宋江と晁蓋である。





「ちなみに宋江。眠った呉用を部屋まで運ぶのは俺だぞ」
「なにを言っておるんだ。この薬を薛永からもらってきたのはわたしだ」
「だが、そもそも計画したのは俺だ!もちかけたのもな」
「なら実行しているのはわたしだ。ちなみに、どういう理由かは知らんが、『心が痛みます』と言ってしぶっていた薛永に、いかにこの薬が切実に必要なものであるかおよそ4刻!膝を突き合わせて説明して納得してもらったうえで手に入れた薬だぞ」
「ほんとにそういう、人を丸め込むみたいなことは、得意なんだな」
「お二方、何をしてらっしゃるんですか?」
冷たい声にふりむけば、扉のところに、新たな書類を抱えた呉用がいた。青白い顔がひきつっている。

「わたしがもどるまで、一歩たりとも卓から動いてはなりません。と、きつく言いましたよね」

呉用は、どこかの誰かを彷彿とさせる、冷たい笑みを浮かべた。

「誰かの笑い方に似てる気がするんだが」
「公孫勝じゃないか?」
「ああ。なるほど」

このふたり、実は仲がいいのかもしれない。
会議の後ふたりで話していたりするし。頻繁ではないにせよ、酒を呑んだりもするらしい。

「いかんな」
「なにがいかんのだ、晁蓋」
「公孫勝に似ると林冲がよって来る。しかも公孫勝とちがって非力な呉用では、あんな怪力に迫られたらひとたまりもない」
「なにブツブツ言ってんですか」
「いやっなにもないぞ。そうだ、呉用。少し休憩したらどうだ?ほうら、茶だぞ」
「お茶くむ時間があるなら、書類の一枚でも目を通してくださると大変助かるのですが。あなたもですよ、宋江殿」
「そういうな、呉用。そうだ、今日は3人で川の字になって寝ようか。もちろん真ん中はおまえな」
ガっと顎を掴まれた。いや、口をふさがれた。
そのまま握りつぶされるかと思ったが、呉用にはそんな腕力はないはずだ。

「宋江殿は、あいかわらず不思議なことをおっしゃるのですね。大の男が3人そろって川の字?どうぞ寝てください。呼んできますよ。李逵がいいですか?武松がいいですか?」
「やべてくだひぁい」
「呉用、笑い方がまるで致死軍だぞ」





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