07/09の日記

09:09
春の雪パロ 7
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「私は絳攸を愛しています。必ず幸せにしますから、絳攸との結婚を認めていただけませんか」

「もう無理よ。・・・遅かったのよ」

ここまでくれば、愛などという概念は塵にも等しかった。
紫家との婚約は決まっており、正式発表は来月だが、その報はすでに方々に知れ渡っている。
しかし、こうなってしまっては、婚約の話は流れるだろう。
問題はその後だ。
紫家の面子に泥を塗ってしまった今、その後の身の処し方で未来が変わってくる。
もう、百合達が守るものは決まっていた。

絳攸と、そのお腹の子だ。

紫家との婚約を蹴って、身重の体で藍家の息子と結婚したらどうなるか。
2人とも無事にすまない上に、最悪の場合お腹の子までも失ってしまうだろう。
それを避けるためにも、今は2人の仲を許すわけにはいかないのだ。
絳攸もそれを解っているからこそ、頑なに「藍楸瑛」の名前を出さないのだ。


「責任を取って欲しいわけじゃないわ。
今日来たのは、もう絳攸に会わないと約束して欲しいの。理由はわかるわよね」

「しかし!」


なおも楸瑛は食い下がる。
当然だろう。ここで、ハイそうですか。と言うような男であれば百合達も今まで見て見ぬ振りなどしなかった。
すべては遅すぎたのだけれど。


「・・・・・絳攸と話をさせてください。」

「駄目よ」

「ですがこのままでは・・・。絳攸は不安なまま、一人でこれからの困難に耐えることになります。
一度で良いのです、話をさせてください。・・・・・絳攸の為にも、お腹の子の為にも!」


あまりの必死な様子に動揺した百合は、隣の黎深に伺うような視線を向けた。
すると黎深は手にした扇をバキッと二つに折り、床に力いっぱい投げつけた。


「・・・・・半刻だけだ」


黎深は吐き捨てるように言って、もう用はないと室を出て行ってしまった。


「もう一度だけ言うわ。絳攸と子供のことを思うならこれっきりにして」


また遣いの者を寄こします、といって百合も静かに退室した。



※ ※ ※ ※ ※



当主夫妻が帰った後、楸瑛は糸が切れた操り人形のように、だらりと長椅子に凭れ掛っていた。
未だおさまる様子のない胸の鼓動が全神経を高ぶらせる。

(私と絳攸の子供・・・・)

それは思わぬ贈り物だった。
絳攸の体に己を刻みたく、何度か絳攸の中に放ったものが実を結んだのであろう。
普段、信仰していない神に感謝したい気持ちでいっぱいだった。

これから私は沢山の物を失うだろう。
だが、それを引き換えに絳攸が手に入るのならば、己の肩書きや立場などは所詮、些事だ。

(今度こそ絳攸を手に入れるんだ・・・)



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