07/22の日記

14:27
春の雪パロ 9
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※ここからは三島由○夫の「春の雪」とは何の関係もなくなります。




人知れず藍家の子息と紅家の娘の淡い恋が終わりを告げ、早や10年の歳月が流れた。





「主上、今日は福祉について学んでゆきますよ」

「絳攸〜、今日は天気がいいからそんな気分ではないのだ」

「天気と福祉はなんの関係もありません。早く書を開きなさい」


和やかな雰囲気に包まれた昼下がり、室に漂う生ぬるい空気を払うように、女人の厳しい声が響いた。
絳攸は後宮にいた。
妃としてではなく、女官として主上の講師役を務めるためだ。



溯る事10年前、大病を患ったとの理由で紫家との婚約が破談になった後、絳攸は静養の為と朝廷を辞した。
当初は紅州に渡り、人知れず子を産み育てようとしていた。
だが書物や朝廷のことしか知らない絳攸は、家を出ようと準備にもたもたしていると、あっという間に産月を迎えてしまった。
結局、黎深様の「どうせ迷惑をかけるなら私の目の届く範囲でしろ」と訳のわからない一言で世話になることになった。

生まれた子は女の子だった。

自分の子ではまずいので、黎深様が新たに迎えた養い子として取り計らってくれたのだ。
その娘も成長し、手がかからなくなってきたので働き口を探そうと動き出した矢先だった。
後宮に女官としてあがり、主上の勉学の指導をして欲しいという話が持ち上がったのだ。
主上とは自分と婚約破棄になった公子の劉輝様だった。
一度は丁重にお断りしたのだが、先方から是非にと再度の申し出が来た。
思案の末、10年前の裏切りの贖罪に、少しでも役に立てるのであればと受けることにしたのだ。


「・・・・ゆう、絳攸!」

「えっ!ああ、すみません。なんですか?」

「そなた熱でもあるのではないのか?」


心配そうに覗き込み、絳攸の額に労働を知らないしなやかな手が触れた。

(劉輝様は優しすぎる)

それが絳攸にとって救いでもあり、苦痛でもあった。


「大丈夫ですよ。そんなこと言っても今日の分の勉強は減りませんよ」

「絳攸は意地悪なのだ」

「そのかわり早く終わったら花菖蒲でも見にゆきましょう。今日を見逃すと勿体ないですよ」


そう言えば劉輝は、うんうんと嬉しそうに首を大きく縦に振る。
その様子が子犬のようで、その純粋さに笑みがこぼれる。


「珠翠殿や女官たちも誘って行きましょう。大勢の方が主上も楽しいでしょうし」

「え!?まっ、待つのだ!」

「?」


途端に劉輝はあたふたと言いよどみ、小声で「えっと」「その」としきりに呟いていた。
そして顔を上げ、絳攸の瞳を真摯な眼差しで見つめた。


「その・・・・、余は絳攸と2人で行きたいのだが・・・。駄目か?」

「そうですか?まぁ、主上がよければ。・・・では2人で行きましょうか」

「そうか!では、頑張って終わらせるのだ」


満面の笑みを浮かべる劉輝につられ、絳攸も笑みを返した。
この柔和な雰囲気漂う至高の存在に、弟のような親近感をおぼえてしまう。
同時に許されない罪を隠し、態々と仕える己の浅ましさに嫌悪がつのる。
だがそれは容易く口に出来ることではないので己の胸のうちに秘める。
かつて愛した人からの贈り物。愛しいわが子を守るために・・・・・。





私がこの方に出来ることは、決して裏切らず生涯をかけて御仕えすることだけだ。


それが私にできる唯一の贖罪の証―――――。







※ ※ ※ ※ ※

ようやく劉輝の出番がきました!口調が難しい。気を抜くと、すべて語尾が「〜なのだ」になってしまいます(笑)
次の話は大体出来てるんですが、子供の名前が決まらす四苦八苦。どうしたものか〜



☆コメント☆
[はる] 08-31 00:45 削除
はじめまして。素晴らしいです。続きお願いします。

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