08/18の日記

11:03
彩雲国幼稚園 6
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シワ一つ無いコアラ柄のエプロンを纏い、人数分用意したプリントの端をきちっと揃え机に置く。
手際よく仕事をこなしてゆく楊修の予定に狂いはなかった。
園児達が登校する前にすべての準備が済み、一息つくために昨日挽いたばかりの豆をコーヒーメーカーにセットする。
コポコポと心地よい音を聞きながらふと外を見ると、登校してきた一人の園児の姿が目に飛び込んだ。
それまで穏やかだった気持ちが、一気に底辺まで急降下する。
なぜなら一番乗りで登校した園児が、藍楸瑛だったからだ。
いつも絳攸の周りをチョロチョロして、隙あらば手を出そうとする害虫のような子供だ。
教員を世間では聖職とも言うが、自分は聖人になったつもりはない。
嫌いなモノは嫌いなのだ。

そんな楊修の刺すような視線を気づく様子もなく、藍楸瑛は一直線にキリンの絵の描かれた部屋へ入ってゆく。
職員室を見渡すと絳攸の姿が見えない。
おそらくキリン組の教室に居るのだろう。

(・・・・藍楸瑛と2人きり・・・。)

外れることのない嫌な予感に従い、足早にキリン組の教室へ向かった。






絳攸の教師としての成長を望む楊修としては、手放しに甘やかすのは本意ではない。
自分の力で、あのエロ餓鬼を撃退して欲しいのでギリギリまで助け舟をださないつもりだ。
音をたてないように慎重に扉に耳をつけ、中の様子を伺う。


「・・・・・あっ・・・」


妙に艶やかな絳攸の声が聞こえたような気がして楊修の心臓がドクンと大きく跳ねた。
いつも園児たちで賑やかな教室は静寂に包まれ、二人の声だけが遠慮がちに響く。


「僕は絳攸が思ってるほど子供じゃないよ・・・」

「・・・おまえは・・まだ子供だ・・・」


断片的にしか聞こえてこない話に胸がざわつく。
それでも、その話し声に甘い雰囲気を感じ取り、嫌な汗が背をつたう。


「ほら見て、絳攸。僕の・・・・こんなに大きいよ・・・」

「・・・ほんとだ。・・・・すごい・・・大きくなってる・・・」

「・・・子供じゃないって言ったでしょ・・・」


扉を隔てているせいか、妙に大人びて聞こえる藍楸瑛の話し方が癇に障る。


「絳攸にも、してあげるよ・・・・。」

「・・・あっ・・。おっ、俺はいい・・・」

「だめだよ。・・・・ほら、きて・・・」








「君たち!何やってるんですか!!!」


突然、勢いよく扉が開き怒声をあげ仁王立ちしている楊修に、2人は驚き呆然としていた。
教室の中は耳が痛くなるほどの沈黙が流れた。
ここで何をしてたかなんて、一目瞭然で・・・・。



そこには身長計に乗って、互いの身長を測りあう2人がいた。



(なっ、なんて紛らわしい会話だ・・・!)



しかし乱入してしまったからには、このまま引き返すわけにもいかない。
慌てて場を取り繕う為に絳攸の腕をとり、強引に引き寄せる。


「今から職員会議の資料を作りますよ!手伝いなさい!」

「えっ?・・・・あっ、はい」


絳攸との時間を邪魔された事で睨み付けてくる藍楸瑛にかまう余裕もなく、絳攸の腕を掴んだまま職員室へ向かった。








「楸瑛はすごいですよ!半年で2センチも身長が伸びてたんです!」

「・・・・・・へぇ」


どーでもいい情報に、ついつい気のない返事をしてしまうのは仕方のない事。
だがこれ以上、絳攸の口らか「藍楸瑛」の単語を聞くのは決して愉快ではない。

絳攸の華奢な両肩を掴み、自分に引き寄せる。
何事かと小首をかしげる姿が妙に可愛らしかった。
潤んだ菫色の瞳が物欲しげに自分を見つめ、すこし開いた桃色の唇が誘っているようだった。
あまりの無防備さに楊修は窘めるように咳払いをする。


「・・・とりあえず、君はもう少し自衛の意識を持ちなさい」

「はぁ。自衛・・・ですか・・・・」


楊修の切実なアドバイスに、絳攸はパチパチと瞼を瞬いた。
できるだけ頑張ってみます、と頼りない返事をする絳攸にものすごく不安になる。
だが素直で無防備な所が絳攸の長所でもある。
絳攸のそんな所を楊修は気に入っていたので、無理に矯正することはしない。
下手に矯正して、いざ自分が手を出すときに警戒されたのでは本末転倒だ。
日ごろ、仕事や立振舞いが完璧なこの男も、こと恋愛に関しては楊修も楸瑛と同レベルだった。


(まだ、当分この子を守るのは私の役目のようですね・・・)







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アホな話でしたね〜。すみません。

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