逕庭の猫
□幻の川
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笹の葉音がさらさらと風に揺られ流れている。
暗がりの中、外に飾られた笹は照らされることは無い。それ故にまるでその葉音が川のせせらぎのようにも聞こえてくる。
よく晴れた空、灯篭の火も消されて、ただ満天の星空を眺める。星祭の些細な宴も終わって、皆寝静まっている所為で辺りは静かだった。無論どこかに夜番をしている兵や忍もいるだろう。
見上げた先の空は、星が瞬き存在を主張している。月明かり程ではないが、星の瞬きもまた一つの光源と言えるのではないのだろうか。
足元を照らす程の強い光ではなく、まるで蛍の光のようでさえあるが、頼りないとは感じない。
寄り集まり、光を放つ星の集合体はまるで川だ。さらさらと流れる笹の葉音と相俟って、まるで本当に川がそこにあるのではないかと錯覚してしまいそうだ。
政宗も俺と同じように空を見上げて、言葉はない。
本当に見事な星空で、その光景は幻想的ですらあった。この星空に、さらさらと揺れる笹に、いったい幾人が願いを託したのだろうか。
今年も政宗は願いを吊るす事はしなかった。だから俺も、昨年と同じように、政宗の願いが叶えばいいと願った。
願いは叶うだろうか。否、叶えばいいと思う。
暗い空に星の瞬きと笹の葉音の幻の川を、俺はただひたすら見上げていた。
(幻の存在と知りながら、それでもそこに願わずにはいられない。)