逕庭の猫
□猿飛佐助との邂逅
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「ふーん…。
一体どんな猫かと思ったけど普通の猫だよねぇ」
耳に飛び込んだ、聞き慣れない声に耳が反応した。
政宗でもない、小十郎でもない、ましてや成実でもない。 あくまでも軽い口振りは伊達軍内の人間からは聞いたことがなかった。
「あー…でも可愛いって言えば可愛いよねぇ」
至近距離、俺が耳を峙てているのに気付いてか、それなりの距離で男はしゃがみ込んで俺を眺めて(正確には観察して)いるようだ。
客か?…それにしても他の気配は側にはいない。
客を1人で放っておくなど無礼が過ぎる。
しかし侵入者ならば起きないわけにもいかんだろう。普通の猫と称したからには政宗の関係者とは判断しがたい。
敵意はないが、しかし放っておくことも出来ない。
折角眠っていたというのに、全く…。
心中だけで苦言を漏らし、漸くゆっくりと頭を上げ、大きく欠伸をしてから男を見た。
まず目に入ったのは夕焼けのような赤い髪。
「あ、起きた。…へぇ、珍しい毛色してる」
男は俺を珍しそうにしげしげと見やって息を吐く。その男を見つめ返し、俺は何事かと首を小さく傾けた。
赤い髪、森に隠れるには最適そうな緑色の迷彩色。
やはり見たことのない顔だ。格好からして…忍、だろうか。(しかし、任務に忠実な政宗の忍を見た事がないので判断は出来ない。)
「にゃおぅ」
「うっわ、可愛い。
竜の旦那いいなぁ…うちの旦那と交換してくれないかなー無理だよねぇ〜」
あーやっぱ無理かぁ、とがっくり忍は肩を落とす。
見た事はない男だが、軽い。喋り方もそうだが、態度が一番軽々しく思える。
にこにことした表情は、はたして侵入者――偵察か盗人か判断出来ない。
友好的にも見えれば、どこか研ぎ澄まされた感覚の奥には刺を含んでもいるような気がして。