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□しゃぼん玉
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【しゃぼん玉】


  しゃぼん玉 飛んだ

  屋根まで 飛んだ

  屋根まで 飛んで

  壊れて 消えた





私には好きな人がいた。

彼との出会いは去年の入学式。

案内係をしていた私は道に迷ったらしい新入生に声をかけた。

「うるせぇ!俺は迷ってなんかねぇ!!」って真っ赤な顔して言われた。

さっきまで不安そうな顔でウロウロしてたのに。

体育館の場所を教えるとさらに真っ赤な顔をして走って行った。


ただそれだけ。


その日以来言葉を交わすこともなかった。

ただ、自主トレをする姿をたまに見かけるくらいだった。

それから数ヶ月後、テニス部の有望そうな1年生として彼の名前を聞くようになった。

そして3年生が引退した後、見事レギュラーを勝ち取った。

彼はものすごく努力家なんだと思った。

鋭い程の視線はただ真っ直ぐに前を見据えている。

ひたむきな瞳が印象的だった。

そんな彼の魅力を知ってから私はテニス部の練習を見るのが楽しみになったいた。

今思えばすでに彼に惹かれていたのかもしれない。

そんな私の無自覚な想いに気づいた人物がいた。

たまたま通りかかったテニスコートの前で同じクラスの乾くんに呼び止められ、いきなりこんなことを言われた。



「海堂のこと好きなんじゃない?」



ドキッとした。



早くなる鼓動、上がる体温。

きっと顔は真っ赤だろう。

あの日の海堂くんみたいに。

コートの奥には本人がいる…

そう思ったら余計恥ずかしくなった。

でもそんな私に乾くんは残酷な言葉を告げた。



「残念だけど、海堂には好きな人がいるみたいだよ。」



心臓が止まるかと思った。

体温が急激に下がり、

頭が真っ白になった。

私は気がついたら学校を飛び出していた。





いつのまにか河原に来ていた。

たまに海堂くんがランニングや素振りをしていたところだ。

しばらくぼーっとして、ふと思い出した。

そういえば昨日、商店街の福引きで当たったしゃぼん玉があったな…

5等のしゃぼん玉。

こぼれないように蓋をあけて、ふーっと吹いてみた。

次々に生み出される小さなしゃぼん玉。

キラキラ光りながらあちこちに飛んでいく。

次は大きいのを作ろう。

ゆっくり慎重にふーっと吹いてみた。

だんだん大きくなるしゃぼん玉。

まぁるいしゃぼん玉は虹色に輝きながら空にのぼっていく。

私の想いもあのしゃぼん玉みたいにあの人に届けばいいのに…

もう1つ大きいのを作ってみた。

さっきより大きくなるよう慎重に慎重に…

すると欲張りすぎたのか、膨らみすぎたしゃぼん玉はストローから離れる前にパチンと音を立てて壊れてしまった。



…そうだ私、失恋しちゃったんだっけ。



好きな人に好きな人がいる。

届くはずの無い私の想い。

自覚して大きく膨れ上がった私の恋心は一瞬にして壊れてしまった。

彼に届くことなく…




  しゃぼん玉 消えた

  飛ばずに 消えた

  生まれて すぐに

  壊れて 消えた








2008.06.14〜10.13


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