novel-four-

□神隠しの果て(連載中)
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「…何年経った…。」
「3年だよ。」

3年…。あの日から、3年…か。
なんとなく横になってはいられなくて躯を起こす。両膝を抱えるように座り、視線はどこか宙へ適当に。

「いい加減、逃げてばっかもいられねえよな…。」

独白のように呟くけば、一緒に溢れる溜息。
真綿で傷口を包むような繊細で穏やかな治療より、傷口こじ開けて膿を絞りだすような粗雑で荒っぽい治療の方が、案外治りは良かったりするもんだ。と昔誰かが言っていた。考えただけでかなり痛いけど。

「行くよ。明日、墓参り。」
「大丈夫なの…?」
「オマエが誘ったんだろが。」
「そうだけど…。」
「いつまでも逃げ回ってたって、痛みは消えないんだ。だったら、向かってった方がマシだろ。」
「遥紀…。」
「て、やっと思えるようになったから。大丈夫だよ。」

不安そうに見つめてくる綾に笑いかけて頭を撫でてやる。さっきの仕返えしに、猫を撫でるように。
「撫でるなよ、髪がぐしゃるだろ。」
「オマエだってさっきやっただろ。」
笑いながらじゃれつくように小突き合う。
あぁ、なんか、すっきりした。
理由が見付からなかったから、取り敢えず、綾が眩しいくらいに笑ってるからだ、と結論づけて、俺にしつこくちょっかいをかけてくる二本の細くて白い腕を捕まえた。俺が意地悪してるんだと勘違いしたらしい綾が腕を振り払おうとするけど、そこはそう、自称健全なヒキコモリですんで、力はあるのよ、そこそこね。腕を捕まえたままベッドに沈めてしまえばこっちのもの。デッカイ眼を更にデッカくさせているのもお構い無しに、目の前にある薄くて赤い唇を奪ってやる。
柔らかいなあ、なんてしみじみ思ってしまう辺り、かなりキてるんじゃないだろうか。俺が他人の唇を吟味した回数なんぞたかが知れてるから、比較対象はそう多くない。だから現状ってことになるんだろうけど、綾の唇は最高に気持ちいい。多分きっとこれから先、これ以上俺の壷にしっくりくるものには出会わないだろう。万一別れても、綾以上のやつなんて出会えないだろうし。なんて、柄にもなくこっぱずかしいこと考えてんな、俺。
なし崩しにやると後が恐いけど、今は気にしないことにしよう。据え膳食わぬは男の恥ってことで。いただきます。



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