novel-four-

□神隠しの果て(連載中)
1ページ/5ページ



雨が窓を叩く。ひどい、とまではいかないが、結構な量の雨が降っていた。
俺にとって、雨は憎らしい対象じゃない。外に出るには鬱陶しいけど、家の中で過ごすには静かで気分が落ち着くから。今日のように陰鬱とする日は、特に。

「だりい…。」

近頃めっきりヒッキーで電波系な俺。ネットは必要最低限だし、女の子見たら可愛いな程度には思うが萌えーと叫びだしたりしないし、特にアニメとかロボットが好きなわけでもない、外にも行くし、服装は多少だらしないが許容範囲内だろうということで、日本一の電気街をサンクチュアリと呼ぶ奴らの仲間入りはしてないと思うわけ。詰まるところ、俺は健全なヒキコモリだ。…と、自負している。客観的に見れば、五十歩百歩らしいが。

「遥紀」

この家で俺を呼ぶのは二人だけ。飼い猫のルーンと、ルームメイトで同級生の烏丸綾。ルーンは話さないから、実質綾しかいないわけだけど。
呻き声ともつかない俺の返事を聞いてから、リビングに居た綾がそっとドアを開けて真っ暗な俺の部屋に細い光を入れた。ちと眩しい。

「なに…。」

小さな声で応えると、綾は俺が横になっているベッドにそっと腰を下ろしてきた。ギシ…、とベッドが緩く軋んで微かに傾く。
相変わらず細えな、と思いながら視界の隅にある綾の腰を軽く撫でると、セクハラすんな、とばかりに手を摘み挙げられた。いてて…。

「明日さ、もし晴れたら、お墓参り行こうよ。」
「…墓参り…?」

突拍子もない綾の言葉に、そういやこいつは天然だった、と思い出すまで悩むこと、数秒。
今は確かに八月で、盆と呼ばれる季節だから間違っているわけじゃない。世間一般、先祖や由のある故人に挨拶をしに墓へ行ったり、誰の入れ知恵か知らないが夏野菜で馬と牛を作ったりするんだ。…多分。けれど、先祖参りならば俺は一週間ほど前にーー顔も見たくないが綾に追い出されて仕方なくーー家族と済ませいるし、綾と二人で行くような相手に心当たりは無い。

「誰の…?」

散々悩んで眉を寄せる俺に綾は淡く微笑むと、伸び放題でボサボサの俺の髪に指を絡めながら、ゆっくりと梳いた。まるでワンコでも撫でるように。

「もちばあちゃんのトコ。」

綾の唇から紡がれた名前に、ピクンと躯が反応する。あまりにも、覚えがありすぎるその名前に眩暈さえ感じた。

「…今年も…、無理…?」

咎めるふうではないが、さっきとは違う雰囲気の声音が俺の答えを伺う。


.

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ